添乗員ライターがお届けする海外旅行情報。今回はイタリア・ミラノが世界に誇る建築遺産、ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世を徹底的に紹介します。
イタリア語の “Galleria” は “ll” が重子音のため、実際の発音は「ガレリア」より「ガッレリア」が近い表記です。しかし、日本では「ガレリア」と表記されることが多いため、本記事では「ガレリア」で統一しています。
ミラノのドゥオーモ広場に隣接し、ガラスと鉄骨で構成された壮麗な天蓋が空へと伸びるこの建物を目にしたとき、思わず足を止めてしまう旅行者は少なくありません。19世紀に完成したイタリア最古のアーケードは、「ミラノのサロン(il salotto di Milano)」とも呼ばれ、地元市民の待ち合わせや散策の場として150年以上にわたって愛され続けています。プラダ、グッチ、ルイ・ヴィトンといった世界的ハイブランドの旗艦店が軒を連ねる一方で、幸運を呼ぶと伝わる「雄牛のモザイク」でかかとを回す幸運祈願を体験しようとする旅行者が絶えない、ミラノ観光の絶対的な中心地です。また、東京ディズニーランドのワールドバザールのモデルになったとも言われています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 正式名称 | Galleria Vittorio Emanuele II(ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世) |
| 所在地 | Piazza del Duomo, 20121 Milano, Italia |
| 見学時間 | 24時間(各店舗・施設は営業時間による) |
| 見学料 | 無料 |
| アクセス | 地下鉄M1・M3線「Duomo駅」から徒歩約3分 |
| 建設期間 | 1865年〜1877年 |
| 設計者 | ジュゼッペ・メンゴーニ(Giuseppe Mengoni) |
混雑と価格〜ミラノの洗礼として受け入れる覚悟を
ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世はミラノ随一の観光名所であるがゆえに、観光客と地元市民が常時混在する非常に混雑した空間です。特に午前10時から午後4時の間は人の波が途切れることがなく、雄牛のモザイクを踏もうとすれば順番を待つことになります。スリや置き引きへの注意も必要で、バッグの管理は常に万全にしておきましょう。
アーケード内のカフェやレストランは、ミラノ市内の一般的な飲食店と比較して割高な設定になっています。同じエスプレッソでも、近隣の路地裏のバールと比べると数倍の価格差があることが珍しくありません。ガレリア内での食事を楽しむことはもちろん贅沢な体験ですが、食費を抑えたい場合は周辺エリアのトラットリアや地元のバールを利用するのが賢明です。ショッピング目的で訪れる場合も、価格帯は最高級のラグジュアリーブランドが中心のため、観光と割り切ってウィンドウショッピングを楽しむ旅行者が大半を占めています。
イタリア統一の夢が生んだ歴史的建造物

ガレリアの誕生は、19世紀のイタリアという激動の時代と深く結びついています。長年にわたって分裂していたイタリア半島が悲願の統一を遂げたのは1861年のことでした。新しくひとつの国家として生まれ変わったイタリアは、その誇りを形にする象徴的な建造物を必要としていました。
同年、ミラノ市は大聖堂広場(ピアッツァ・デル・ドゥオーモ)とスカラ座広場(ピアッツァ・デッラ・スカラ)を結ぶ都市再開発コンペを開催します。ヨーロッパ各地から176件もの設計案が集まるなか、ボローニャ出身の建築家ジュゼッペ・メンゴーニの提案が選ばれました。パリのショッピングアーケードを研究したメンゴーニは、当時としては革新的な鉄骨とガラスを組み合わせた大規模な屋根付き通路を構想。宗教の中心であるドゥオーモと、文化の殿堂であるスカラ座を一本の優雅な回廊でつなぐという構想は、教会と国家の融合というイタリア統一の象徴ともなりました。
1865年3月7日、イタリア王国初代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世自らが礎石を置き、工事が始まります。しかしこのアーケードの建設には、当初からミラノ市民の反対意見も少なくありませんでした。歴史的な街の一部が取り壊されることへの反発も大きく、資金調達のために試みた宝くじも十分な成果が得られなかったといいます。それでもメンゴーニは12年間にわたって工事を指揮し、ドームの複雑な幾何学構造など数々の技術的課題を一つひとつ乗り越えていきました。
1867年9月15日、まだ完全に完成していない状態でガレリアは最初の一般公開を迎え、ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世がその名を冠したアーケードを公式に開きました。その後も工事は続き、完成への道を着実に歩んでいたガレリアでしたが、竣工の直前に悲劇が訪れます。1877年12月30日、完成を目前にして最後の仕上げを確認しようとガラスドームの足場の頂部に登ったメンゴーニは、そこから転落して命を落とします。翌日に予定されていた正式な竣工式を生きて迎えることができなかったのです。当時4,000人を超えるミラノ市民がその葬儀に集まり、一部では陰謀説まで囁かれたほど、彼の突然の死はミラノに衝撃をもたらしました。
完成したアーケードは、それまでの先行事例をはるかに凌駕する規模と芸術性を誇っていました。南北に約196メートル、東西に約105メートルのラテン十字型の通路が交差する中央には八角形の広場(オッターゴノ)が設けられ、その上には直径約37メートル、高さ47メートルにも達する巨大なガラスドームが屹立しています。このドームの規模はローマのサン・ピエトロ大聖堂のドームと同等であり、当時の建築技術の最高到達点のひとつとされました。鉄骨の製造はフランスのアトリエ・アンリ・ジョレ社が担い、ガラスはサンゴバン社製の平板リブドガラスが使用されるなど、国際的な協力のもとで建設された世界水準の建築物でもありました。
ミラノ市民は当初こそ反対していたこのアーケードを、完成するや否やすぐに「ミラノのサロン」として受け入れ、自らの誇りとしていきました。第二次世界大戦中の空爆でガラスドームは大きな損傷を受けましたが、戦後に復元工事が行われ、2015年のミラノ万博に向けた修復工事でファサードやモザイクが精緻に修繕されるなど、現在も美しい姿を保っています。
世界のブランドが集う「商業の大聖堂」

建物の壮大さだけが、ガレリアの魅力ではありません。かつてプラダの創業者マリオ・プラダが1913年にここに最初の店を構えて以来、このアーケードはイタリアおよび世界のファッション産業にとって特別な意味を持つ場所であり続けています。
贅を尽くした内装装飾
アーケード内に一歩足を踏み入れれば、その空間の豊かさに圧倒されます。床全面を覆うモザイクタイルには、イタリア各都市の紋章や寓意的な模様が緻密に描かれており、単なる通路の床とは思えない芸術的な完成度を誇ります。壁面には漆喰のレリーフが施され、新バロックと新ルネッサンスが混在する装飾様式がアーケード全体に統一感を与えています。
中央ドームの四方の壁面近くには、四大陸(アメリカ、アフリカ、アジア、ヨーロッパ)を象徴する4枚のフレスコ画が描かれています。天上から降り注ぐ自然光が床のモザイクを輝かせる様子は、宗教建築の神聖な空間を連想させると評されることも多く、「商業の大聖堂」という表現がぴったりと当てはまります。
アーケード内のすべての店舗看板は、開業当初から定められた規則により黒地に金文字という統一デザインが義務付けられており、この細部へのこだわりがガレリア全体の格調高い雰囲気を保つ一因となっています。
プラダ本店〜ファッション史と向き合う場所
ガレリアで最も象徴的なブランドといえば、なんといってもプラダです。中央の十字路を挟んでメンズとレディースの店舗が向かい合うように配置されており、創業以来のマホガニー棚などオリジナルのインテリアが今なお保存されています。1919年にイタリア王室の御用達(フォルニトーレ・デッラ・カーサ・レアーレ)の認定を受けたことはブランドの歴史的誇りであり、ロゴに刻まれた王冠と紋章はその証しです。ブランドの現在の名声に圧倒されがちですが、ここはファッション史そのものを感じられる場所でもあります。
老舗カフェと歴史あるバール
ガレリアには、建物の歴史とほぼ同じ年月を歩んできた老舗飲食店が複数存在します。1867年にパオロ・ビッフィが創業した「カフェ・ビッフィ(Caffè Biffi)」は、王室の菓子職人が営んでいた由緒ある菓子店です。同じく1867年に開業した「サヴィーニ(Savini)」は、ガレリアを代表する格式あるリストランテとして知られています。また、ガスパーレ・カンパリが1867年に開いた「カフェ・カンパリ」を前身とする「カンパリーノ(Camparino)」はアールヌーヴォー様式の内装が特徴で、ミラノのアペリティーボ文化を象徴するバールとして地元市民にも愛されています。
幸運を呼ぶ「雄牛のモザイク」〜ミラノのパワースポット

ガレリアを訪れた旅行者のほぼ全員が立ち寄るのが、中央広場(オッターゴノ)の床に描かれた「雄牛のモザイク」です。青いタイルで縁取られたこのモザイクはトリノ市の紋章に描かれた雄牛を表しており、その股間部分がわずかにくぼんでいます。このくぼみにかかとを置き、3回転(右回りとも逆時計回りとも諸説あります)すると幸せが訪れる、再びミラノに戻ってこられる、願いが叶うといった言い伝えがあり、毎日数え切れないほど多くの人がこの儀式を行っています。
なぜトリノの紋章でこの儀式が行われるのかについては複数の説があります。1861年のイタリア統一当初、最初の首都はローマではなくトリノでした。その後首都がフィレンツェへ、さらにローマへと移っていったことで、かつての栄光を誇ったトリノへの皮肉として踏みにじる行為が始まったという説が有力のひとつです。また、王制に反感を持つ人々が、王家サヴォイア家の縁の地であるトリノの紋章の雄牛の「急所」を踏みつけるようになったという説も伝わっています。
いずれにしても、その行為は現代ではすっかり縁起担ぎの儀式として定着しており、スーツ姿のビジネスマンから買い物袋を提げた地元のマダムまで、通りすがりに軽やかに3回転していく様子はガレリアの日常風景のひとつです。あまりにも多くの人に踏まれるため、このモザイクは何度も修復工事が繰り返されています。
四季を通じた表情〜ミラノの「居間」として生きる空間
ガレリアはショッピングアーケードであると同時に、天候に左右されないミラノ市民の公共の居場所でもあります。晴れた日も雨の日も、ガラスの天蓋が柔らかく光を通し、季節ごとに異なる表情を見せます。春と秋にはミラノ・ファッションウィークの時期にあたり、世界中のファッション関係者がこのアーケードに集まり、街全体が高揚した雰囲気に包まれます。
クリスマスシーズンになると、アーケード内に巨大なクリスマスツリーが飾られ、イルミネーションが灯ります。ガラスドームを通して黄金色の光が降り注ぐ冬の夜のガレリアは、旅行者にとって特別に忘れがたい光景として記憶に刻まれることでしょう。夏は日差しを遮る屋根付きの涼しい通路として、地元市民の日常の動線に溶け込んでいます。
また、中央広場では野外コンサートやデザイン展示などのイベントが不定期に開催されることもあり、ミラノの文化的な発信地としての機能も担っています。
合わせて訪れたい周辺の観光スポット
ガレリアはミラノの観光拠点が集中するエリアに位置しており、徒歩圏内に世界的な名所が数多く点在しています。
ドゥオモ(ミラノ大聖堂)

ガレリアの南入口を出ればすぐ目の前に広がるのが、ミラノの象徴ともいえるドゥオモです。白大理石のゴシック建築は着工から完成まで約6世紀を要しており、世界最大規模のゴシック聖堂のひとつとして数えられます。外壁を飾る135本の尖塔と3,400体を超える彫像の数々は圧巻で、屋上テラスからはミラノの街並みと、晴れた日にはアルプスの山並みまでを望むことができます。

テアトロ・アッラ・スカラ(スカラ座)
ガレリアの北出口を抜けるとスカラ座広場(ピアッツァ・デッラ・スカラ)に出ます。世界最高峰のオペラ劇場として名高いスカラ座は、18世紀の創建以来、音楽の都ミラノの文化的な顔として君臨してきました。オペラやバレエ公演のチケットは早期予約が推奨されます。劇場に隣接する博物館では、スカラ座の歴史や舞台衣装、楽器などを見学することができます。
王宮(パラッツォ・レアーレ)
ドゥオーモ広場の南側に面する旧王宮は、現在ミラノ市の美術・文化施設として活用されています。年間を通じて国際的な特別展が開催されており、訪問時期によって見応えのある展示に出会える可能性があります。かつてのミラノ公国と後のイタリア王国の権威を示す重厚な建築も見どころのひとつです。
ブレラ地区
スカラ座からさらに北に徒歩10〜15分ほど歩くと、ミラノの芸術と文化の中心地として知られるブレラ地区に辿り着きます。石畳の小道に沿ってアトリエや画廊、個性的なカフェが立ち並ぶこのエリアは、ミラノのなかでも特に落ち着いた雰囲気を持ちます。イタリアを代表するブレラ絵画館(ピナコテカ・ディ・ブレラ)が位置しており、ラファエロ、マンテーニャ、カラヴァッジョなど名だたる巨匠の作品を鑑賞することができます。
周辺のおすすめ宿泊施設
パーク ハイアット ミラノ(Park Hyatt Milano)
ガレリアの入口に正面から向き合う位置に建つ5つ星ホテルです。19世紀に建てられた宮殿を大規模改修した建物は、ガレリアと同じ時代に建設された歴史を持ちます。全108室の客室はミラノらしいエレガントなデザインで統一されており、バスルームにはイタリア産大理石とムラーノガラスのシャンデリアが施されています。ガレリアに面したロビー上のガラスドームが印象的な「ラ・クーポラ・ラウンジ」は宿泊者でなくとも利用でき、ミラノ滞在の気品ある一コマを演出してくれます。ドゥオーモ、スカラ座、ブレラ美術館のいずれにも徒歩数分という立地の良さも申し分ありません。
ガレリア ヴィク ミラノ(Galleria Vik Milano)
ガレリア内部に実際に位置する唯一のホテルです。かつて「タウンハウス・ガレリア」として知られていたこの施設は、現代アートギャラリーとホテルが融合した独特のコンセプトが特徴で、全客室がアーティストの作品で飾られています。客室によってはアーケードを見下ろすバルコニーが付いており、ガレリアならではの唯一無二の景色を独占できます。2つのレストランを併設しており、開業以来ミラノを訪れる旅行者の特別な選択肢として評価されています。スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)加盟施設です。
ローザ グランド ミラノ(Rosa Grand Milano)
ドゥオーモまで徒歩約5分の好立地に位置するモダンな高級ホテルです。ガレリア、スカラ座、スフォルツェスコ城いずれにも徒歩圏内という観光拠点としての使い勝手の良さと、地下鉄ドゥオーモ駅へのアクセスのしやすさが旅行者から高く評価されています。スタイリッシュな設計の客室と充実した設備で、初めてミラノを訪れる旅行者にとっても滞在拠点として信頼感の高い選択肢です。
約160年間、ミラノの心臓として鼓動を刻み続ける場所
1865年に礎石が置かれて以来、ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世は約160年間にわたって、ミラノという都市の変化をすべて見守り続けてきました。王国の誕生、戦争、復興、そしてファッションの都としての世界的名声の確立〜その長い歴史の証人として、このアーケードは今日も変わらぬ姿でドゥオーモ広場に立っています。
無料で入場でき、雨の日も晴れの日も訪れることができるガレリアは、ミラノ観光において欠かすことのできないスポットです。ハイブランドのショッピングを目的とする方はもちろん、建築美や歴史的背景に興味を持つ方、雄牛のモザイクで運試しをしたい方、あるいは老舗カフェで豊かな時間を過ごしたい方まで、あらゆる旅行者に新たな発見をもたらしてくれる場所です。ぜひミラノを訪れる際は、このアーケードで十分な時間をとり、ミラノという都市の本質を感じとってください。
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